人種差別撤廃基本法 モデル案

外国人人権法連絡会の運営委員会において、人種差別撤廃条約の理念に則り、日本における人種差別の撤廃に向けた効果的な政策を行なうための国内法として、「人種差別撤廃基本法案」のモデル案を作成しました。 多くの方に関心を持ってもらうことを強く望んでいます。(2015年1月27日)

※一部修正するとともに、注釈・参考法令を加えました。(2015年2月3日)


人種差別撤廃基本法案

外国人人権法連絡会 運営委員会

枠組:人種差別撤廃条約の実施を確保するため、国と地方公共団体の人種差別を撤廃する責務を定め、実施に向けての実態調査及び提言権限を有する「人種差別撤廃政策審議会」(障害者基本法における「障害者政策委員会」類似の国家行政組織法8条委員会)を内閣府に新設する。

第1条 目的
この法律は、すべての人が生まれながらにして基本的人権を等しく享有するかけがえのない個人として尊重されるべきとの世界人権宣言の理念にのっとり、差別がマイノリティ 1)の尊厳を傷つけ、かつ、自由、平等、平和な共生社会の実現並びに諸国間の友好的かつ平和的な関係に対する障壁となることに鑑み、人種差別が社会において許容されないものであることを宣言するとともに、人種差別の撤廃に向けた国、地方公共団体等の責務を明らかにし、人種差別撤廃のための施策を総合的かつ効果的に推進し、人種差別撤廃条約及び憲法第14条の適確な実施を確保することを目的とする 2)

第2条 定義
「人種差別」:人種等の属性にもとづくあらゆる区別、排除または制限であって、政治的、経済的、文化的その他の社会生活の分野における平等の立場での人権及び基本的自由を認識し、享有し又は行使することを妨げ又は害する目的又は効果を有するものをいう 3)
「人種等」 4) :人種、皮膚の色、世系、民族的もしくは種族的出身、国籍 5)、門地若しくは社会的身分

第3条 差別の禁止 6)
何人も、下記にあげたことその他の人種差別をしてはならない。

  1. 採用、労働条件その他の労働関係、医療、社会保障、教育、不動産、物品若しくは役務の提供、団体加入などのあらゆる社会生活における人種等を理由とする差別的取扱い 7)
  2. 意図的な、公然たる、人種等の共通の属性を有する特定または不特定の者についての 8)、当該属性を理由とする侮蔑、威嚇その他の差別的言動 9)
  3. 1の差別的扱いを助長する、特定または不特定の者についての公然たる差別的言動 10)

第4条 国及び地方公共団体の責務
国及び地方公共団体は、人種差別撤廃条約の趣旨にのっとり、人種差別を批判し、人種差別を撤廃し、すべての人種等の間の理解を促進する政策を策定し、遂行する責務を負う 11)

第5条 基本方針

  1. 政府は、人種差別の撤廃に関する施策を総合的かつ一体的に実施するため、人種差別の実態に応じた、差別撤廃に関する基本方針を定めなければならない。
  2. 内閣総理大臣は、基本方針を定めるにあたっては、関係行政機関の長と協議するとともに、人種差別撤廃政策審議会の提言を踏まえて基本方針の案を作成し、閣議の決定を求めなければならない。その際、人種差別の被害者その他関係者の意見を聴き、その意見を尊重しなければならない 12)

第6条 国及び地方公共団体の措置

  1. 国及び地方公共団体は、これまでの政策を再検討し、人種差別を生じさせたり、永続化させたりする効果を持ついかなる法令も改正し、廃止し、無効にするために効果的な措置をとる。 13)
  2. 国及び地方公共団体は、人種差別を禁止する法制度を整備する 14)
  3. 国及び地方公共団体は、人種差別行為の防止、人種差別行為からの保護及び被害者の救済のための効果的な制度を整備する 15)
  4. 国及び地方公共団体は、人種差別撤廃条約に合致するよう法令及び条例を解釈し、運用・執行する。
  5. 国及び地方公共団体は、人種等の間の障壁を撤廃する手段を奨励し、人種等の間の分断を強めるようないかなる動きも抑止する措置をとる 16)
  6. 国及び地方公共団体は、すべての公務員が人種差別にたずさわらず、また、人種差別を後援、擁護、支持しないよう、研修を行う 17)。公務員が人種差別に関わった場合に懲戒の対象とする 18)
  7. 国及び地方公共団体は、人種差別につながる偏見をなくし、異なる人種等の諸集団の間での理解と友好を促進するため、人種差別撤廃条約などの国際人権諸条約の普及を含む教育、啓発、文化活動、その他の交流の促進その他の措置を行う 19)
  8. 国及び地方公共団体は、第1条に規定する社会の実現を図るための施策が国際社会との協調と密接に関係していることに鑑み、国際連合、近隣諸国、日本に居住する外国籍者の出身国をはじめとする関連諸機関及び関連諸国などとの国際的協調の下に図られなければならない 20)
  9. 国及び地方公共団体は、人種差別の撤廃に向けた取組が促進されるよう、国内外における人種差別撤廃の取り組みに関する情報の収集、整理及びそれらの情報提供を行う 21)
  10. 国及び地方公共団体は、人種差別の撤廃に取り組む民間の団体及び地域における取組が果たしている役割の重要性に留意し、これらの団体等との緊密な連携の確保及びそれらの活動に対する必要な支援に努めるものとする。
  11. 国及び地方公共団体は、インターネットにおける、第3条2又は3に該当する表現について、その制限に関する事業者の自主的な取組及び被害者の取組を支援するために必要な措置を講ずる。

第7条 年次報告
政府は、毎年、国会に、政府が講じた人種差別の撤廃に関する施策の実施状況に関する報告書を提出しなければならない 22)

第8条 法制上の措置等
国及び地方公共団体は、この法律の目的を達成するため、必要な法制上及び財政上の措置を講じなければならない 23)

第9条 人種差別撤廃政策審議会の設置 24)

  1. 国は、内閣府に人種差別撤廃政策審議会を置く。
  2. 人種差別撤廃政策審議会は、下記の事務を行う。
  3. (1) 内閣総理大臣に対し、人種差別撤廃の基本方針について、提言を行う。そのために、人種差別の実情について全国的な調査を行い、報告書を作成する。
    (2) 日本の人種差別に関する重要事項状況について調査審議し、人種差別の撤廃のために必要と認めるときは、内閣総理大臣または関係機関の長に対し、提言または是正勧告を行う。
    (3) 政府が国連に提出する人種差別に関する報告書について、意見を述べることができる。
    (4) その事務を遂行するために必要と認めるときは、関係機関の長に対し、資料の提出、意見の表明、説明その他必要な協力を求めることができる。
    (5) 事務を遂行するために特に必要があると認めるときは、前項に定める以外の者に対しても、必要な協力を依頼することができる。
  4. 内閣総理大臣または関係機関の長は、前項(2)の規定による是正勧告に基づき講じた施策について審議会に報告しなければならない。

第10条 人種差別撤廃政策審議会の構成

  1. 人種差別撤廃政策審議会は、15人以内の委員により構成する。
  2. 委員は、人種などの属性におけるマイノリティに属する者、人種差別と取り組んで来た団体、人種差別に関する研究者・弁護士、人種差別撤廃教育の専門家、差別の実態調査に関する社会調査・統計の専門家、差別の被害者を扱うカウンセラー等の中から、両議会の同意を経て、内閣総理大臣が任命する。この場合において、委員の構成については、審議会が多様なマイノリティの意見を聴き、差別の実情を踏まえた調査審議を行うことができるよう、配慮されなければならない 25)

第11条 人種差別撤廃政策地方審議会 26)
人種差別撤廃政策審議会は、下記の事務を行う。

  1. 都道府県は、人種差別撤廃のための担当部署を設置し、また、政策などの立案、諮問、提言、監視機関として人種差別撤廃政策地方審議会を設置しなければならない。
  2. 市区町村は、人種差別撤廃のための担当部署を設置し、また、政策などの立案、諮問、提言、監視機関として人種差別撤廃政策地方審議会を設置することができる。

第12条 事業者の責務 27)
事業者は、その事業活動を行うに当たって、人種差別が行われることのないよう必要な措置を適切に講ずるよう努めなければならない。

第13条 私人の責務 28)
すべての私人は、人種差別の撤廃の推進に寄与するよう努めなければならない。

【注釈・参考法令】
1) 「マイノリティ」との用語は、国内法となっている自由権規約第27条の原文(英文)で使われている。その他、使われている国連文書は、国連マイノリティの権利宣言、国連自由権規約委員会の自由権規約第27条に関する一般的意見、国連人種差別撤廃委員会2014年総括所見パラ11他、国連自由権規約委員会2014年総括所見パラ12等。
2) 障害者基本法第1条参照。
3) 人種差別撤廃条約第1条1項から「優先」を除いたもの。「公的生活」との用語はわかりにくいので、「社会生活」に変更した。
4) 人種差別撤廃条約第1条1項及び憲法第14条にあげられている人種主義関連の事由。
5) 「国籍」は条約上差別事由として明記されていないが、国連人種差別撤廃委員会一般的勧告30及び国連自由権規約委員会の自由権規約第27条に関する一般的意見により、原則として差別禁止の対象となっている。日本では民族差別は主要に国籍差別の形態をとる。
6) 障害者基本法第4条1項参照。
7) 人種差別撤廃条約第5条。
8) 直接対象となる人々に対して向けられる必要はない。
9) 人種差別撤廃条約第4条が対象とするヘイト・スピーチのうちの悪質なものの例示。
10) 「外国人お断り」とのポスターなどを想定している。
11) 人種差別撤廃条約第2条1項本文及び障害者差別解消法第3条。
12) 障害者基本法第10条。
13) 人種差別撤廃条約第2条1項(c)。
14) 人種差別撤廃条約第2条1項(d)。
15) 人種差別撤廃条約第6条。
16) 人種差別撤廃条約第2条1項(e)。
17) 人種差別撤廃条約第2条1項(a)(b)、障害者差別解消法第5条。
18) 人種差別撤廃条約第4条(c)。国連人種差別撤廃委員会2014年総括所見パラ11。
19) 人種差別撤廃条約第7条。
20) 障害者基本法第5条。
21) 人種差別撤廃条約第7条。
22) 障害者基本法第13条。
23) 障害者基本法第12条。
24) 障害者基本法第32条。
25) 障害者基本法第33条2項。
26) 障害者基本法第36条。
27) 環境基本法第8条。
28) 障害者差別解消法第4条。